「あの人は真面目でいい人」
「あの部下は素直で、こちらの頼み事を何でも聞いてくれる」
この様な評判、ちょっと聞く分には良いイメージだと思います。
お付き合いするなら、そんな人が理想だと思う人も多いと思います。
真面目、素直、そして「いい人」。
一見すれば何も悪い所は見当たらないように思います。
ですが、この様な「いい人」は、人生を損する人、出世できない人である事が多いものです。
人生も、仕事も、「ゲーム理論」で考えてみる事で新しい発見があります。
ゲーム理論とは、複数の人間が関わる時の意志決定の問題で、相互関係を理論的に考えるというものです。
もう少し分かりやすく説明すると、「複数の利害関係者がいる状況で、どんな行動を取るのが最適か」を考えるものです。
つまり、自分以外の相手がいる時に、自分がどういった行動(戦略)を選べば自分にとって利益が高いかを考えるという事です。
ではここで、ゲーム理論の代表的なモデルである「囚人のジレンマ」を紹介します。
ある2人の男が犯罪の容疑者として逮捕されました。
2人は別々の取調室に通され、事情聴取される事になりました。
しかし、いつまで経っても2人は黙秘を続けているばかりで、しびれを切らした刑事が2人に次のような提案をします。
「このまま黙っているのもいいが、自白した方が身のためだぞ。黙ったまま刑が決まれば懲役3年になるが、自白してもう1人の犯行も証言してくれれば減刑して懲役1年で済ませてやる。ただし、もしあっちが自白してお前が黙ったままなら、お前の刑は重くなって懲役15年になる。まあ、2人とも自白した場合は両方とも懲役10年だけどな」
ここで一度整理してみましょう。
・相手が自白せず、自分が自白した場合は懲役1年
・相手と自分が自白しなかった場合は懲役3年
・自分と相手が両方自白した場合は懲役10年
・相手が自白して、自分が自白しなかった場合は懲役15年
相手を裏切れば軽い刑で済み、相手も裏切ると共倒れで、もし相手に裏切られれば、最も重い刑を執行されてしまいます。
これを今回の「いい人」という観点で考えてみると、もし相互の利益を虜って自白をしない「いい人」でいた場合、自分の利益だけを重視して自白する「ずるい人」に出し抜かれてしまうかもしれません。
これはそんな心理を突いた、巧みな取引だという事です。
この様に、お互いに意思疎通できない状況で、相手に協力するか、裏切るかの選択を迫られているというような相互依存関係をシミュレーションする1つの分かりやすいモデルとして、この「囚人のジレンマ」があるのです。
では、人は「囚人のジレンマ」と似たような状況に陥った時、どのような行動を取る傾向にあるのでしょうか?
相手に協力するのか。
あるいは、相手を裏切るか。
自己と他者の関係を考える上で、この様なジレンマに直面する事は避けられません。
このゲーム理論を踏まえて、「いい人」であるという戦略は、将来的にその人にとってどれほどの利得をもたらすのか。
「いい人」でいるという戦略を冷静に考えた時、私はどう考えてもそれほど「利得の期待値」が高くないという結論に至ってしまいます。
確かに他人から「いい人」という評判は得られますし、表面上は感謝され、有難がってもらえると思います。
けれどもそうした「いい人」は、人の頼みを断れないので、常に便利に使われるばかりでなく、全ての行動がマイナス方向に向かってしまいます。
頼まれごとに「NO」と言えない→1人で仕事を抱え込んでしまう→溜め込み過ぎてパンクしてしまう→評価が上がらない→労働の報酬も上がらない→豊かで幸せな人生を送れない
こんな風に人生の負のスパイラルに陥ってしまったら、「いい人」の称号にいったい何の意味があるのでしょうか?
美徳も大切かもしれませんが、それ以上に大切な事はもっとたくさんあります。
人生は選択と決断の連続です。
その時その時の状況をどういう戦略で超えていくのかが重要だと思います。
他人は自分の為に死んでくれません。
結局、最悪の状況になれば他人は皆逃げます。
そんな時に美徳なんて言ってられません。
自分が豊かになるのが大切なのか、「いい人」という称号を守る事が幸せなのかよく考えて行動して下さい。